2011/06/02

InDesignによる欧文組版の基本操作その3

今回で基本操作第3回目となりますが、このブログでは、InDesignで欧文組版をするための機能やその操作方法を説明しています。もし「InDesignの用語はわかるけど、欧文書体や欧文組版そのものについて、基本や言葉の意味がわからない…」または「もっと知りたい!」という方は、小林章氏 著『欧文書体』高岡昌生氏著『欧文組版』(ともに美術出版社 刊)をぜひお手元おいて確認されるとよいと思います。

前回までの基本的な事項をまとめますと、
  1.(段落パネル)コンポーザ=欧文コンポーザ
  2.(文字パネル)文字揃え=欧文ベースライン
  3.(段落パネル)行送りの基準位置=欧文ベースライン
  4.(段落パネル)グリッド揃え=なし
でした。
今回は「文字設定」のバネルの中の、「カーニング」「言語」(赤枠のところ)について説明します。
まず、文字設定パネルについて、日本語版と英語版で比較してみましょう。
左側が英語版、右側が日本語版です。日本語版の赤でバツをしている箇所は、日本語組版のための機能ですので、欧文組版では使用しません。「文字回転」については、一見和文も欧文もどちらにも使用しそうですが、これは日本語用の機能です。そのため、コンポーザを欧文設定にしていると、回転をかけても反映されません。
では、まず「カーニング」について説明します。


カーニング
一般的にフォントには、日本語フォントにも欧文フォントにもペアカーニング情報が設定されています。ペアカーニング情報とは「ある文字とある文字が並んだ時に、どれくらい詰めるのか」という情報です。

和文等幅
日本語版InDesignには文字のカーニング設定として、「和文等幅」「メトリクス」「オプティカル」の3種類があります。英語版には「和文等幅」はありません。

「和文等幅」は「日本語の文字はペアカーニング情報を使用せず、 欧文の文字のみペアカーニング情報を使用する」という設定になります。和欧混植ではとても役立つ設定です。実は、欧文のみの文章で使用しても問題はありません。

メトリクス/オプティカル
ただ、せっかくですので、欧文組版の時は、英語圏で通常使用されている「メトリクス」を使用することをおススめします。
先ほど述べた「ペアカーニング情報」は、フォントデザイナーがフォントを作成する際に、極めて慎重に細かく設定しているものです。見出しやロゴなどで特別なデザインをする場合は別としても、本文組みなどの長文については、 このカーニング情報を活かした「メトリクス」の設定を使用することをおススめします。

では「オプティカル」って…。
「オプティカル」はフォントに設定されているペアカーニングは無視して、「 InDesign独自の判断で均等に見えるようにする」機能です。
下の欧文組版の例を見てください。
上が「メトリクス」、下が「オプティカル」です。
上は「メトリクス」
こちらが「オプティカル」

もちろん、細かく文字と文字の間にカーソルをあてると、ツメ情報の数値が違っていることがわかりますが、ここでは細かい数値のことは考えないで、実際に読んでみてみましょう。
あまり英文を読む機会のない方がパッとみると、オプティカルの方が文字が均等にきれいに並んで見えるかもしれません。しかし、実際に読んでみると、メトリクスの方が、単語がキュッと引き締まって、単語の並びにリズム感が発揮されており、読みやすいことがわかるかと思います。オプティカルの方は、だんだん単語が間延びして見えてくるのではないでしょうか。
このリズム感のよい流れを活かすために、欧文組版では「メトリクス」設定を使用します。

では、「オプティカル」ってどんな時に使うの…?
1. URL
URLでは//の間がアキ過ぎるなど、手動での微調整な場合があります。このような場合にオプティカルを使うと、均等にならんで、URLとして読みやすくなります。
上は「メトリクス」、下が「オプティカル」

2. 電話番号・郵便番号などの数字とハイフン・Nダッシュ、ノンブルなど
全てのケースにあてはまるわけではありませんが、数字とハイフン、Nダッシュが並んだ時に微調整が必要な場合があります。またノンブルについては、本文中ではきれいな並びの数字も、ノンブルとして使うと詰め具合が少しばかり個性的に見えてしまう場合があります。そんな時にオプティカルをあてると、バランスがよくなることがあります。ノンブルにあてる場合は、マスターページのノンブル記号にあてます。
上は「メトリクス」、下が「オプティカル」
3. 異なるフォントを混ぜて使う場合
ペアカーニングは同じフォントどうしでの情報ですので、異なるフォントで組み合わせた場合は調整が必要です。このような時にオプティカルを使うと、ほどよいバランスになります。
上は「メトリクス」、下は「T」のみに「オプティカル」。
上記のような場合、もちろん1つ1つ手詰めしたほうが、よりきれいに仕上がると思います。しかし、本文中にたくさんある場合などは、検索・置換を利用して変換することで、組版の時間を節約して効率よくきれいに仕上げることができると思います。

言語
言語は、欧文のみの原稿の場合、必ず書かれているその言語を選ぶようにします。
InDesignには「スペルチェック」や「ハイフネーション設定(次回以降で説明します)」のための「辞書」があり、文字パネルでの言語の設定はこの辞書に関わってきます。英語の場合、イギリス英語、カナダ英語、米語の区別があり、またその中で、医学用語、法律用語の分類があります。該当する言語を設定しましょう。テキストをオールセレクトして「文字パネル」の言語から該当言語を選択してください。

和欧混植の場合は、全てに日本語があたっていると、欧文単語で行送りされる際のハイフネーションに制限が発生します。欧文単語には必ず該当する言語があたるようにしましょう。まず、オールセレクトで全てに日本語をあて、その後、該当する言語を再度選択します。そうすると、1バイト文字の英数字には、該当する言語が設定されます。

以上です。

6 件のコメント:

  1. こんにちは!ロンドン在住のグラフィック&ブックデザイナーです。最近ライノタイプの小林さんのブログでの紹介で存在を知ってI Love Typesetting 読み始めました。とても分かりやすく丁寧に例を挙げて説明されていて、欧文組版について学びたい方には本当に役に立つブログだろうなあと感心しています。

    ところでカーニングについてですが、私はコンさんとは少し違う意見を持っています。確かにメトリクスのほうがきれいに組める書体もあるのですが、オプティカルの方がきれいに仕上がる書体も多いので、私は書体によって変えています。オプティカルだと確かにレタースペースが空きすぎる場合もあるので、その場合はトラッキングで調節します。

    もちろんどの書体も書体デザイナーが細かく設定してあるのでしょうが、リアリティーは書体デザイナーのスキルには差があるので、どの書体もメトリクスが完璧ってことはないです。書体デザイナーにこれを言うと嫌がられるんですけどね(笑)。

    なので、めんどくさいことに一概にどっちがいい、とは言えないと私は自分の経験から思うんですが、コンさんはどう思われますか?

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  2. Shokoさん、カーニングについてのコメントをありがとうございました。
    メトリクスとオプティカルについてですが、
     メトリクス --> 書体の持つ数値  オプティカル --> InDesignの数値
    ですので、おっしゃる通り、その書体自体がよいメトリクス情報を持っていなければ、オプティカルの仕上がりの方がよくなると思います。最終的には、メトリクスが良いか、オプティカルが良いかではなく、どちらが読みやすいかですので、デザイナーや編集者の目が一番だと思います。

    以下は、基本としてメトリクスを推奨する私の意見ですので、参考までにということで、読んでいただければと思います。
    オプティカルの特長は「きれいに並ぶ」ということです。これが、見た目きれいかどうかですと、きれいなんです。そのため、何かの単語で文字の並びだけで比べると、文字間はメトリクスよりオプティカルのほうがきれいだったりします。

    ポイントは、その単語が長文の中に入った時です。その単語が、単語としてひと固まりに、その単語が1文字のような印象で目に入ってくるのは、この一見完璧でないような文字間のメトリクス設定の方なんです。

    大分前にですが、長文をメトリクスとオプティカルで組み、テストしたことがあります。その時は、英語を見る人はオプティカルがきれいとコメントし、英語を読む人はメトリクスが読みやすいとコメントしていました。その時の意見も参考にしています。

    いずれにしても、メトリクス、オプティカル両方の特長を知って、効率よく作業するために使い分けていくのが大事かなと思います。あくまでもここでの情報は取捨選択してください。みなさんそれぞれの経験値はとても貴重で大切ですし、それらも共有していけたらいいなと思います。ロンドン在住ということは、欧文組版の仕事の経験も多いと思いますので、気になることや自分の経験談などありましたら、ぜひまたコメントをお願いします;-)。

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  3. コンさん早速の返事をありがとうございました!

    「ポイントは、その単語が長文の中に入った時です。その単語が、単語としてひと固まりに、その単語が1文字のような印象で目に入ってくるのは、この一見完璧でないような文字間のメトリクス設定の方なんです。」

    ここ、面白いのでもう少し具体的に説明していただけますか?

    私も以前から英語を「見る」人はレタースペースをゆるく組みすぎる傾向があるというのは気付いてました。でもそれはオプティカル、メトリクスに関係なくトラッキングで調節できますよね?

    興味を持ったので知り合いのイギリス人の経験豊富なブックデザイナー5人に、本文組みにどっちのカーニングを使うか意見を聞いてみたところ、返答は「メトリクスを使う事が多いけれど、書体によってはオプティカルの方がいい」「断然オプティカル」「いつもまず両方で組んでみて、仕上がりのいい方を使う」とのことでした。

    実は(私を含め)皆さんそれぞれ自分がよく使う書体との相性で判断されてるから、意見が分かれるのかもしれませんね(笑)。

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  4. Shokoさん、コメントありがとうございます。
    「ポイントは、その単語が長文の中に入った時です。その単語が、単語としてひと固まりに、その単語が1文字のような印象で目に入ってくるのは、この一見完璧でないような文字間のメトリクス設定の方なんです。」
    についてですが、実はこれ以上の説明はなかなか難しいところです。というのも、書体デザイナーは、このあたりも考えてメトリクス値を設定しているのでは、と思うのですが、これらが実際どう見えるのかは、その現場や各個人の経験、扱ってきたものなど、見てきたものによりますので、何が正しいかという答えがなく、その制作物の現場にいる、経験のある各デザイナーやtypesetterの判断が一番の答えになると思うからです。Shokoさんのおっしゃるように書体によるというのもその通りだと思いますし、イギリス人デザイナーの方々の判断も、色々テストしてみての判断だと思いますので、検証済みであれば、それが正しい判断だと思います。

    基本をメトリクス値で考えておくメリットとしては、「その書体の特徴を知っておける」ということです。「この書体はココが詰まりがち」のように知っておくと、例えば、InDesign以外の組版ソフトを使う時にも便利です。最近ではユーザーがかなり減ってしまったようですが、QuarkやFrameMakerにはオプティカル機能がありませんので、メトリクス値が基準になります。Quarkには「カーニングエディタ」という非常に便利な機能がありますので、これを使って詰まり気味のところやあいてしまうところを全般にコントロールすることが可能です。

    私の場合、InDesign使用の際、基本メトリクスを使用して、よく使う書体で「ココは詰まりがち」と分かっている場合、そこにピンポイントでオプティカルをかける、のように、両方のイイトコ取り風に使っています。また、自分用の書体見本を作成していて、メトリクスとオプティカルそれぞれのサンプルを載せて参考にしています。

    それぞれ色々な使い方があり、絶対正しいという答えはないと思います。本人が使いやすく効率のよい方法が一番ですし、特に組版の場合、赤字修正にも迅速に対応する必要があるため、使いやすさや、その現場での共通の使い方は何よりも重要です。私のケースも、あくまでも参考の1つにしていただいて、もしこれがより効率がよさそうでしたら、その現場の判断材料の1つにしていただければいいなと思っています。現場でどんどん話し合って検証していただけると、私も、とてもうれしく思います。

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  5. コンさん、丁寧なご返答をどうもありがとうございました。

    おっしゃるように、両方の機能、それから書体の特徴を知って使い分ける(もしくはおいしいところ取り)のが一番だと思います。そうですよね、Quark だとカーニングペアの設定ができるんですよね。大分前にインデザインでもカーニングペアの設定を可能にする「Cool Kerning」というプラグインをインストールして試したことがあるんですけど、結局オプティカルの機能を上手く使えばあまり必要ないという結論に達して、使わなくなりました。

    ところで、オプティカルですが、本文サイズだとメトリクスと比べてレタースペースがゆるくなる場合が多いんですけど、書体のサイズによって変わるので(小さいとゆるく、大きいとタイトになる)、展覧会のパネルなど大きなサイズのテキストの組版の場合、また注意が必要ですよね。

    「自分用の書体見本を作成していて、メトリクスとオプティカルそれぞれのサンプルを載せて参考にしています。」

    これ、すごくいい案ですね。私も真似させてもらいます!

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  6. Shokoさん、コメントの返信ありがとうございます!「Cool Kerning」というプラングインがあったんですね。カーニングエディタがInDesignにもあるといいですよね(Adobeさ〜ん、お願いします。)。
    オプティカルについても、まだまだみんなの知らないナイスの使い方がありそうですので、機会がありましたら、ぜひ発信してください。
    今後ともよろしくお願いします。

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